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Saloon of Adventurers

剣と魔法のファンタジー世界における権謀術数を描くオリジナル小説

第十四章(3)

第十四章

「手柄を立てたあかつきには、おまえにも紋章を授けてやろう」
「俺に、ですか?」
 ジラールはその胸を見た。つるりとした胸甲の曲面には何も描かれてはいない。敵味方を隔てるものは、左腕に巻かれた黄と赤の布だけだ。
「そんなものより、俺は金がほしいですね」
「むろん、金もやろうというのだ」食い詰め者の言葉に、ユディウスは気を悪くしたふうもない。「だが、おまえには分からぬだろうが、紋章にも効能はある。金持ちは、ただの金持ちだ。だが、紋章を授かれば、おまえもひとかどの武将の仲間入りができるのだ。位が上がれば、おまえが人に頭を下げずとも、人がおまえに頭を下げるようになる。たとえば、おまえを追い回していたサイアスでさえもな」
「そいつはいいや」ジラールはにやりとした。
「どんなのがいいか、今から考えておくとしましょうや」
 ナルドが以前に指摘してみせたとおり、レイモンという押さえをなくしたファリアは、秋の森に落ちた団栗よろしく、周囲の猪――あるいは豚か――からむさぼり食われる運命〔さだめ〕にあるといえた。 
 それを許しておく大公〔ユディウス〕ではない。離間、懐柔しておとなしくさせておける相手には水面下で工作し、それでも打って出ようという相手には兵を向ける。
 兵士たちの手前、自信ありげにふるまってはいるが、ユディウスは一抹の不安をうしろに残していた。
 言うまでもなく、帝国の存在である。
 ゆえに、サイアスと、帝国とのいくさに慣れた古参の軍師ダルカンをおいてはきているが……。
「帝国は手出しして参りませんよ、むしろ、手出しできぬのですから」
 馬を並べるナルドが言った。人の姿をとった妖魔は、寸鉄帯びずに、ちょっとそこまで出かけるかのごとき気楽さで馬に跨っている。
「帝国の動きにおまえが何か絡んでいるのか? 私は何も命じた覚えはないぞ」
「さあ……わたくしめは何もいたしておりませんが」妖魔はうっすらと笑みを刷いた。
 この貧相な男が妖術つかいであることは今や軍団じゅうに知れ渡っており、皆遠巻きにささやきかわしこそすれ、積極的に話しかけようとしたり、ましてや小馬鹿にする者は誰もいなかった。ユディウスに対しても物怖じせぬ口をきくジラールでさえ、命じられぬかぎりナルドのもとへ近づこうとはしなかった。
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いつのまにやら第十四章の「Ⅱ」。

INFORMATION

突然、過去編が途切れて本編の第十四章の「Ⅱ」が始まったことに驚かれたと思います

 でも、書き手の方では(好き勝手に)過去編を書きつつ本編に戻ったりと、いわば同時進行をしているわけなので、ある程度のかたまりになって、先の見通しがつけば←ココ大事!もうさっさとupしてしまおうかな、と。

 読む方にとっては、ブログという形式もありかなり読みにくいことは承知しているのですが…
 今後も、ときどき途切れ途切れでupすることがあるかもしれません。
 そういうときは覚悟を決めてカテゴリ別に読み進めて頂ければと思います

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第十四章(2)

第十四章

Ⅱ.

 魔道士たちの玩〔もてあそ〕ぶ陣取りゲームにおいて意外なところに置かれた石が思わぬところで情勢をひっくりかえすように――あるいは放置しておいた一匹の鼠がついには家じゅうの食物を食い尽くすように――大公国軍は侵攻を開始した。

 〈帝国〉の一部地域における荒れ模様とは対照的に、大陸中央部の空気は心地よく乾いていた。
 どこまでも高く澄みきった、まるで湖水を逆さまにしたかのような蒼天の下〔もと〕、ゆるやかにうねる丘陵が地平の果てにかすむ。淡い緑と濃い緑が交互に現れるのは、あいだに植えられた小麦の畑。
 乾いた風と降りそそぐ陽の光、それから縦横に走る河川の恵みを受けて、真っすぐに丈高く育った麦の穂が、風の吹く方向とはてんでばらばらに揺れる。
 緑の穂のあいだから突き出しているのは、鋼鉄の穂。
 穂首に吹流しを結びつけた槍も見える。兵士の行進であった。
 じりじりと照りつける太陽に金糸銀糸の照りかえる旗は、〈七つの金の団栗〉〈赤い火蜥蜴〔サラマンダー〕〉の縫取り。〈金の団栗〉はリーンサルの都市国家ファリアのもの、〈火蜥蜴〉はマンドヴァルの大公たるユディウスの、アスカニオ家のものである。
 しかしそこに、大公国の〈双頭の黒鷲〉はない。
 兵の大半は徒歩〔かち〕で、こまかな傷のためににぶく光る胸甲と兜を身につけ、土埃のなかを黙々と進んでいた。
 先頭の騎馬の一団のなかにユディウスはいた。彼は兜をかぶらず、結わえた黒髪を緋の外套〔マント〕の上に流しているほかは、兵士らと似た軽めの胸甲しか纏ってはいなかった。
「どうだ、ジラール」彼は傍らに並ぶ騎馬の男に声をかけた。
「乗馬姿もなかなかさまになってきたようだな」
「ええ、まあね」
 灰色の眸〔め〕の元盗賊団の元締めは、硬い鞍の上で落ちつかなげに尻の位置を直した。
「ですがね、いざってときには下りてやらせてもらいたいもんですね。どうも、こいつらは俺の言うことをききやしねえ」
「構わんさ」ユディウスは笑った。「いずれにしろ、おまえが下馬して戦うことにはならんだろう。モレノの奴らはどうやら篭城を決め込んだようだからな」
「けッ、そりゃあそれでつまらねえ、ですな」
 ジラールは唾を吐きたそうにしたが、主君の前とあってさすがに思いとどまった。
「穴熊を巣穴から追い出すには方法はいくらでもある」
 彼らは都市国家ファリアと、それが抱える傭兵の一団として、敵対関係にある都市モレノへと向かっているのだった。
 ユディウスはファリアの少年君主とその係累を皆殺しにしたあと、兵力をそっくりそのまま傘下におさめていた。今は亡きレイモンの下についていた三人の傭兵隊長たちの妻は、誰あろうあの三姉妹であった。
 むろん、これまでの恩義のあるからと、離れていった者もいないではなかった。が、
「彼らを醜女どもから解放してやったのだから、感謝されてしかるべきだ」とは、虐殺を指揮した張本人の言である。

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小編〔過去編〕(21)

小編

ふだんならば、訪れたときには庭園や回廊をそぞろ歩きするところだが、馬をかえすとすぐ、イレーンは勝手知った控えの間で衣服をあらためた。女王は身内であるし、この宮廷で、たとえ蹄鉄工が革の前掛け〔エプロン〕をつけたまま現われても、なりで判断するようなことはないとはいえ、かの女にはそうすべき理由があった。
(着替えもせずに御前に出たほうが、わたくしがおばあ様の命に急ぎ従おうとしたのだと思っていただけるかしら? それともかえって敬意を欠いたと、こちらのお話も真実とりあっていただけなくなるかしら? ……いえ、イレーン、あなたは何を考えているの……おばあ様は、そのような狭量な考えかたはなさらないわ……)
 白樺が大理石の円柱のごとく立ち並ぶ回廊を、かの女は足早に抜けていった。
 太い木の根で編んだような複雑な文様をうきあがらせた扉の先が、女王の間であった。
 扉の前には揃いのお仕着せをまとった衛士が立っていたが、女王に害なす輩を防ぐためというよりも、女王が玉座にましましているかいないかを判断するためのしるしのようなものにすぎなかった。むろん、女王の孫娘の姿を認めた彼らは――扉も――すんなりとかの女をとおした。

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小編〔過去編〕(20)

小編

イレーンはかるい平沓〔ひらぐつ〕で、起伏のある獣道をすべるように歩いて――ゆくはずであった。実際のところ誰かほかの者がその様子〔さま〕を見ていたならば、かの女の白い裳裾が白鳥の翼のようにひるがえり、血気盛んな牡鹿の跳ねるように進んでゆくのが目に入ったろう。
 どこからともなくみごとな葦毛の馬が現れて、かの女のかたわらへ寄り添った。双眸だけが紅いその牝馬が、長いまつげと真白いたてがみをふるわせると、イレーンはようやく気づいた様子で、頸〔くび〕に腕を回しひらりと飛び乗った。
 鞍も手綱もなかったが、妖精の馬は乗り手に逆らうこともなく、ふたつの姿は白い霧のように木立のなかをとおり抜けていった。
 森のさらに奥へ進むにつれ、木々のあいだのもやはますます濃くなった。気の小さい人間ならば、もやが意思をもってまとわりついてくるようにさえ感じられたかもしれぬ。
 実際、生きもののようにそれらはうごめき、馬が蹄を進めると、文字どおりもやのカーテンがさっとあき、かの女を迎え入れた。
 もやの先は、さながら劇場の裏方から表舞台に出てきたかのようであった。
 うっそうとした樹冠ははらわれ、天上からはやさしい陽光〔ひかり〕が降りそそぐ。でたらめな迷路のように見える小路は、しかし、びろうどのじゅうたんにも似た地衣が敷きつめられ、潅木や可愛らしい丸い茂みも、なかをゆく姿をうまくかくすように配置されている。
 時無し銀いろの実が鈴なりに生る木や、キュリアの香水など足許にも及ばぬ、うっとりする芳香を漂わせるうす紅いろのちいさな花をつける潅木、足下には繊細なレースを散りばめたような花が咲き乱れる……。
 迷宮庭園を抜けた先に宮殿はあった。
 うす紫の香煙が雲のようにたなびき、白亜の宮殿の壁をほのかに染める。
 よく見るとそれは冷たい石の壁ではなかった。
 外壁は乳白色の月長石〔ムーンストーン〕、窓は透きとおった水晶。あずまやの天蓋は金の星を散りばめた瑠璃〔ラピスラズリ〕、木の柱のように見えたのは永劫の時を閉じこめた琥珀。
 木々の樹冠が屋根を成し、塔のような同じつくりの建物(と呼べるのならば)が集まっているさまは、森のなかに、みどりの笠をもつ細長い茸のかたまりが出現したようであった。
 霞にけぶる塔の上層やほかの棟へは、レースのような螺旋階段や渡り廊下が張りめぐらされ、ときおりそこをとおってゆく人影があるのは、遠目に見るとまるで大きな蜘蛛の巣をゆきかう蜘蛛の仔のよう。

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プロフィール

吉村杏

Author:吉村杏
6才の頃からファンタジー好きで、12才の時にミリタリーにもハマりました。ミリタリーはYahoo!に置いてきて(笑)、こっちではファンタジー一本でいこうかと。

更新は基本的に週末の土日、執筆ペースが追いつかない場合は不定期です(笑)。反対に追いついた場合は週の中日にupすることもあります。気長におつきあいください。

ちなみに、ブログタイトルは小説のタイトルではありませんのであしからず…。

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