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第四章

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「このようなことは言いたくないのですが……ルシアン、あなたの兄君をあまり信用してはなりませんよ」
「……何故ですか、母上? 兄上はヴァラール侯爵をはじめ、私のこともお赦しくださったのです。いまだって、母上や姉上のことをあんなにお気にかけてくださっているではありませんか」
 マティスは痛ましげに首をふった。
「わたくしたちは女ですから、あのかたにはおそろしくもなんともないのです。ですがあなたは男子で……わたくしはあなたを産んだとき、あなたを僧侶にしようと思っていたのです。なのにお父上……ガイアス様が許してくださらなかったために、今日ここまできてしまいました。アンドール様もあのかたの下〔もと〕についていらっしゃる以上、わたくしたちにはもう、頼るかたがいないのです」
 貴族の家門の出ではない彼女には、ガイアスの頼みでヴァラールが後見人となっていた。ヴァラールはその誠実な人柄で妾妃の母娘を宮廷内の誹謗中傷から守り、息子ルシアンには公子としての心得や剣を教えたが、権謀術数を嫌う老騎士は、そうしたこと一切を、ルシアンには触れさせぬようにしていた。
 神官僧侶となれば大公位の継承権を棄〔す〕てられるが、もはや遅きに失したことが彼女にはわかっていた。ユディウスに願い出たところで、彼が許すとも思えない。
マティスはいまさらそれを嘆いても、どうしようもないことは承知していた。生きている限り、息子に安住の地はないのだ。
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