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第十二章

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 六人は〈梟〔ふくろう〕門〉で乗ってきた馬を下り、騎士団の主である伯爵のつけた従僕に預けた。明朝に一の郭まで返しにくるよう告げると、従僕は一礼して去った。
 微行〔おしのび〕の格好では、いかにもな駿馬にうち跨って往来をゆくわけにもいかない。そうでなくともこのあたりは、朝のひと商売を終えて近郊の村へ帰ってゆく農民、宿を求めて入ってくる旅人、城壁のなかへ家禽を追い込もうとする牧童に加え、それらの連れ曳いている荷車や驢馬〔ろば〕、それから家鴨〔あひる〕などで蹄の置き場もないほどごったがえしていた。
 いつもそんなふうだから、人の出入りと通行証をチェックする門衛は半狂乱になっており、従僕が顔見知りだったのをいいことに、一緒にいる六人を、ぞんざいに手をふって通らせた。
 彼らの通ったすぐうしろから、
「こらあ――っ! 城壁のなかで豚を飼うなと通達が出ていたろうが――!」
 というほとんど悲鳴のような怒鳴り声が響き、それに追われるように泥だらけの豚の大群が人々の足下を駆け抜けていった。
 もちろん六人は笑いながら飛びのいた。さらにそのあとを、棒切れやぼろ布でできた人形を手に手に、子供たちが歓声をあげながら追いかけてゆく。
「気の毒に。あの男は今夜、豚を探して都じゅうを駆けずり回ることになるぞ」
 ウルバインは何だかよく分からぬぬかるみに尻もちをついた老婆に手を貸して助け起こしてやった。老婆はおっくうそうに立ち上がり、大きな灰色の前掛けで手を拭くと、豚について罰当たりな呪いの言葉をぶつくさつぶやいた。
 厚さ二尺以上はある門を抜けると、そこは都の西区にあたる。
  行きとはうって変わって路地は入り組み、家々は互いに軒をくっつけあうように押し合いへし合いしている。石造りと木造家屋の隣り合うあいだに、川舟に樽を満載にしている看板が見えるのは酒屋、ふたりの女が棒で桶をかき回している看板がぶら下がっているのは洗濯屋だ。
 横道を一本ずれれば、あちらからは香ばしい肉を焼く煙、こちらからは魚を煮込んでいるらしい塩辛い匂い。かと思えば、どの店へ入ろうかときょろきょろしていると、道の真んなかにうず高く積もっている馬糞の山を踏みつける、という具合。
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