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第十二章

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 目当ての場所は、一見ふつうの町屋であった。石造りの三階建てで、通りに面した間口は狭いが、奥ゆきはある。
 この時代、個々の家に風呂はなく、ことに北方に位置する帝国では、大量の湯を沸かして浸かるなどというのはとびきりのぜいたくであった。とはいえ、上つ方から下々の者までみな垢まみれというのもなんとも格好がつかぬ。したがって公衆浴場がつくられたのであるが、いちどきに大勢の人間を入れたほうが効率がよい、というので当初〔はじめ〕は混浴であった。
 男女がひとつ湯船に入って何事も起こらぬと思うのは聖人君子か未通女〔おぼこ〕だけであって、やがて混浴は禁止されたが、世の旦那衆からは非常に残念がられたため、古くからの習慣を残す湯屋もいくつかある。そのためいまでも風呂屋といえば、娼館をも指すのだ。むろん、善良な老若男女をいたずらに恥ずかしがらせぬよう、すぐにそれとわかるつくりにはなっている。
 黄色に塗られた扉をあけると、脂粉の匂いが鼻をくすぐった。それからむっと湿った木の臭い、客の飲み食いする酒や熟れた果物の残滓の発する、饐えたような匂い……。
 奥のほうで、男たちのあいだをスカートをひるがえして相手をしていた女将が、あたらしい客の来たのに気付き、入口のほうへ顔を向けた。
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