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第十二章

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「ここへ来る途中は、狼は出るわ、雨のなか峠で馬車がぬかるみにはまって一緒に押させられるわ、食いっぱぐれたお貴族さまが追いはぎのまねをして襲ってくるわ、あげくのはてにあの娘〔こ〕を一緒につれていくって言ってくれた隊商の親父〔おやじ〕が、駄賃は体で払えって言い出して、何度も操の危機があったんだって!」
 おかしな話よね、と娘は笑った。
「そうか、それは女の足には難儀だったろうな」
「でも近ごろは都だって、外〔ほか〕より安全ってわけじゃないんだから」
 客の関心が新入りに向いているのが面白くないのだろう、娘は彼に体をすり寄せた。
「どういう意味だ?」
「横丁の幼馴染から聞いたんだけど。三の郭で立ちんぼをしてた知り合いがね、何も悪いことしてないのに殴られたんだって。その娘〔こ〕は顔に大きな痣ができたうえに、逃げようとしたときひどく足首を捻っちゃったもんだから、おかげでそのあと何ヶ月も商売に出られなかったんだから!」
「だけど、命あっての物種よ。カルミア女神のおかげで、稼ぎまでは盗られなかったみたいだし」
 帝都の治安維持は宰相を頂点とする内務卿の責任だ。マリウスによれば帝都の行政をあずかる都市伯は何とかいう男で、謁見でも必ず顔を合わせているはずなのだが、記憶のどこをどう探しても、顔も名前も見当がつかぬ。とはいえ貧民窟を外に抱える三の郭となると、殺人ですらときには隠蔽され、軽犯罪は星の数ほど、娼婦の殴打事件など真剣にとりあってももらえぬというのが現実であったが……。
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