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第十二章

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 つらつら考えごとをしているうちに、どうやら眠ってしまったらしい。
 目を覚ましたときには、かたわらのぬくもりはいなくなっていた。
 これ以上長居する気にもなれず、ウルバインは椅子の背にかけられていた服を着込み、房を出た。薄い板壁の向こうからはほかの客の高いびき。
 護衛の騎士らを起こすのはやめにした。なにしろ彼らは非番なのだ。
 番台で剣と財布を受け取る。
「ミィナは? 何か粗相でもございましたかしらん?」と女将。本来なら、客が金を払うまでぴったりくっついて、うつつの夢から覚めぬようにする、あわよくばこころづけの銀貨一枚でもせしめるのがかの女らのしごとだというのに!
「いいや、べつに問題はない。たぶん手洗いにでも行ったのだろう」 
「さようですかあ、ええ、まったく、気のきかぬ娘〔こ〕でねえ……」
 勘定を払おうと財布の口をあけたとき、数枚の金貨が転がり出た。己の横顔が鋳金された面がほの暗いなかでにぶく光り、ウルバインはぎくりとした。もう片方の面は白髯〔はくぜん〕のディトゥール神である。
 即位後しばらくして、あたらしく鋳造された金貨が献上されたとき、彼はマリウスに尋ねた。
「ほかの国でもこういうことをしているのか?」
「しておりませんよそのような悪趣味なこと」マリウスは一枚をつまみあげ、ためつすがめつしながら言ったものだ。
「偽造防止とはいいますが、気にするような人間ならはじめから偽造などしないでしょうし、為政者の顔を知らしめるためなら、銀貨や銅貨に彫り込むべきでしょ。そうしたら、誰に腐った卵を投げつければいいのかすぐにわかりますからね」
 それからすかさず手にした一枚を隠しにしまいこんだので、
「悪趣味じゃなかったのか?」
「表に何が彫られていたって、金〔かね〕は金〔かね〕ですからね」マリウスはにやりとした。
 女将はそんなことに気付いた様子もなく、すばやく金をかき集めると、とびきりの笑顔を向けた。
「また近いうちのおいでをお待ちしておりますよ、お連れのかたがたはご心配なく、朝までごゆっくりお休みいただけますからね。……」
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