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第十二章

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「そうそう、聞いたよ。昨晩〔ゆうべ〕は大変だったんだってね」マリウスはまったくの他人事〔ひとごと〕のように言った。「せめて僕が〈騎士の間〉に居合わせていたらさ?」
「御心を煩わせるまでもございません、侯爵閣下」黒衣の騎士は慇懃に応えた。
「嫌だなあ、もしかして根に持っているの、ええと、僕はちょっと記憶がないんだけど、いつだったかな――」
 副団長はかるく咳払いした。
「その、先日は、〈空飛ぶ鯨亭〉でしたか、居酒屋で大乱闘に」
「でもあれは弁償したろう、陛下のポケットマネーで?」
「そもそもの起こりは、侯爵閣下、飛んできた麦酒〔ビール〕の杯〔ジョッキ〕を閣下が避〔よ〕けられたからで――」
「じゃあ何、僕の頭はいくらでもとりかえがきくけど、陛下のお召しものは替えがきかないとでもいうの? 僕は君ほど石頭じゃあないんだよ、サイフェルト」
 口を挟むすきを与えずに、
「それにあれは陛下は気にするなと仰ったのに、君のとこの近衛騎士が捨ておけないって勝手に参加しちゃったからじゃない。まああのときは皆相当呑んでいたからね。陛下はそれを止めようとして巻き込まれただけだよ」
「ですが閣下は陛下を制止しようともなさらなかった、あの場で陛下にご意見できるお立場のかたは閣下しかおいででなかったというのに……」
「だって仕方ないだろう、僕みたいなひょろひょろが、丸太みたいな漁師たちや君らのあいだに割って入って何ができるっていうんだい。それこそのしイカみたいにされちゃうのがおちだよ」
「そのくらいにしておけマリウス、その件も、皆に飲ませたのは陛下だと聞いている」
一体いつ現れたのであろう、いつものとおり黒髪を結いあげ、男ものの上衣〔うわぎ〕をまとった――もっとも、採寸した仕立屋の粋なはからいでか、サイフェルトのそれよりもいくぶん丈が短く、腰まわりがぴったりしていた――ガラテアが立っていた。
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