FC2ブログ

第十二章

第十二章(18)

 ←第十二章(17) →第十二章(19)
「このような無駄口に殿下のお時間を費やしている場合ではありません。ご容赦を」
「僕は一向に構わないんだけど」
 マリウスの軽口は今度は完全に無視された。
「ところでマリウス、そういえばそなた何の用で自ら出向いて来たのだ? 交易路保全の件について頼んでいた資料を秘書官に持たせて寄越すと言っていたはずだが」
「あなたのお顔を見ずには日も明けないというのに、何の用だとはあまりなお言葉」
「――マリウス?」
「――ああ、ハイ、その件でしたらちゃんとこちらに携えてきております。じかにお話ししたいことも出てまいりましたので」
「――失礼、それは私が同席しておっても差支えないお話でしょうか?」サイフェルトが横から尋ねる。
「構わないよ。どころか、そちらの耳に入れてもらったほうが良い話でもあるし――」
 マリウスがそこまで言ったとき、西日に染まった空を震わせるように、〈霧が丘〉からの鐘の音〔ね〕が流れてきた。
「あれ、いま、何刻〔とき〕です?」とマリウス。
「暮の六ツ半でしょう、私はあと半刻で宿直〔とのい〕に就きますから」
「――え、もうそんな時間?!」
 マリウスは急に、熱い瓦屋根の上の猫のようにそわそわし始めた。見かねたガラテアが、ほかに何の所用があるか知らぬが、では次の機会でよいだろうと言ったのを幸い、ほっと顔を輝かせたのであった。
「――ではガラテア様、こちらが〈苧麻〔からむし〕街道〉筋の報告、それからこちらが先週上申された東区の〈水神大路〉拡張計画の写しです――ああ、ほんとうはもっとゆっくりご説明さしあげたいところなのですが、このあと急ぎの野暮用がございまして。ふたりきりでじっくり話をと仰せなら、明日〔あす〕の朝でも明後日〔あさって〕の昼でも明々後日〔しあさって〕の夜でもいつでも飛んで参りますが、今日の夜だけはだめなのです。ほんとうに。残念です――ではご機嫌よう」
 机の上に紙挟みを積み上げ、ちっちゃなつむじ風のようにマリウスは出て行った。
関連記事
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png INFORMATION
もくじ  3kaku_s_L.png 第一章
もくじ  3kaku_s_L.png 第二章
もくじ  3kaku_s_L.png 第三章
もくじ  3kaku_s_L.png 第四章
もくじ  3kaku_s_L.png 第五章
もくじ  3kaku_s_L.png 第六章
もくじ  3kaku_s_L.png 第七章
もくじ  3kaku_s_L.png 第八章
もくじ  3kaku_s_L.png 第九章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十一章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十二章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十三章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十四章
もくじ  3kaku_s_L.png 小編
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
  • 【第十二章(17)】へ
  • 【第十二章(19)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第十二章(17)】へ
  • 【第十二章(19)】へ

INDEX ▼