FC2ブログ

第十二章

第十二章(21)

 ←第十二章(20) →第十二章(22)
「そのトーナメントの賞品はあなたですか、フラヴィア?」マリウスは奥方の白い胸に口づけた。
「その白いお手ならまだしも、この美しい祭壇に唇を捧げるのをお許しになると思うと妬〔や〕けるなあ」
「まあ、お上手だこと、こんなおばあちゃんに向かって!」
 奥方は、それでも、まんざらでもないという笑い声をあげた。
「あたくしにも捧げ物を選ぶ権利はあるのよ。……でもねえ、そうね、あなたが身分を隠して……そうよ、あなたはまだ若いし、お家の勇名はこちらにも届いていますもの。それで何か言われても兜をとらなければいいんだわ、誓いを立てているとかいってね。そうして優勝してくれたら、あたくし、存分に自分の権利を行使するわ」
「――なんて残酷な女王様だろう!」
 マリウスは頬を寄せていた女の胸元から跳ね起きた。そして窓辺に立てかけてあったリュートをとりあげて、素っ裸のまま張出窓に腰かけて爪弾くのに曰く――

 友よ、剣と戦いは私に何の関係があろう。
 私は遊びと楽しみのために生まれてきたようなもの。
 私は合戦と出陣の求めに臆病となる男、
 だから、私を頼りにしないでくれ。


 吟遊詩人も顔負けの、というほどの美声の持ち主ではないものの、マリウスはあかるくよくとおる声をしていたし、この時代、騎士修行の一環として音楽のたしなみが求められていたから、なるほど貴公子然としたことも一応はできたのである。

 もし敵の攻めてくるのを見たら、
 私は子馬の尻尾に手綱をつけることだろう。
 私は両腕も、楯も、どう使うか知らず、
 兜と胸当ての区別も知らないのだ。
 私の関心は、戦争が起きたら、
 逃げ道はどちらかということだ。


「もう――ええ、もういいわ、わかったわ、マリウス、もう止〔よ〕してちょうだい」
 途中から、旋律に伯爵夫人の笑い声が二重奏となって響いていた。

 酒宴なら、黒衣を着て気取った
 美女を相手に生〔き〕の酒を飲むことなら、
 乙女の許に寝て、彼女と口づけすることなら、
 あなたは私が騎士であることを知るだろう……
関連記事
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png INFORMATION
もくじ  3kaku_s_L.png 第一章
もくじ  3kaku_s_L.png 第二章
もくじ  3kaku_s_L.png 第三章
もくじ  3kaku_s_L.png 第四章
もくじ  3kaku_s_L.png 第五章
もくじ  3kaku_s_L.png 第六章
もくじ  3kaku_s_L.png 第七章
もくじ  3kaku_s_L.png 第八章
もくじ  3kaku_s_L.png 第九章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十一章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十二章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十三章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十四章
もくじ  3kaku_s_L.png 小編
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
  • 【第十二章(20)】へ
  • 【第十二章(22)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第十二章(20)】へ
  • 【第十二章(22)】へ

INDEX ▼