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第十二章

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 さらさらと水の流れる音がする。
 上半身は老年ながら逞しい体つき、下半身はふたまたの人魚の尾を持つ海神ルナンの彫刻のかつぐ大きな水瓶からは透明な流れがちいさな滝となって流れ落ち、しぶきのはねかかる足許では、彼の娘、美しい水の精ナイラたちが、あるものはしどけなく寝そべり、またあるものは父神になよやかな大理石の腕をさしのべている。
 水は娘たちの白い石肌を撫でるようにすべり、波間で戯れる海豚〔いるか〕たちのまわりに渦を巻く。波うつ水面〔みなも〕には蒼天の月がいくつもうかぶ。水しぶきのひと粒ひと粒に月光が照りはえ、さながらこまかなダイアモンドがふりそそいでいるかのようであった。
 いったん噴水の円い台座に溜まった水は、左右の細い水路を真っすぐ流れてゆく。水路と水路のあいだ、幅三尺ほどの花壇には夏の花々が植え込まれ、短い北国の夏の夜に、いまが盛りと甘い香りを放っている。
 花壇のなかほどには白大理石の四阿〔あずまや〕がしつらえられ、水の娘たちに捧げられた川の中州の神殿を思わせた。
 四阿の丸屋根のぐるりには白銀〔しろがね〕の角灯〔ランタン〕が吊り下がり、橙色のゆらゆらとした光を四方へ投げかけている。大理石の柱と床には水面〔みなも〕の照りかえす水紋、頭上にはランタンのつくるやわらかな光と影のために、まるで水底にいるような感覚さえおぼえるそこに、五つの人影があった。
 ひとりは四阿のある屋敷の主、痩せぎすで上品な半白のモンスティエ侯爵である。残る四人も、四角ばった顔つきの都市伯ティゼール。満月のように丸々とした腹を山吹色の胴着で押さえつけているのは、南領を治めるロマリック伯爵。
それから、西方に所領を持つ選帝侯家の一、ウィンドール侯爵家の名代として宮廷に伺候するレノルズ伯爵。そして、過日の一件以降も宮廷に顔をみせているアールミン伯爵……いずれも有力貴族であった。
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