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第十三章

第十三章(2)

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 結局、都〔ここ〕では俺は何者にもなれなかったわけだ、と彼は考えた。ちょっとばかしよくできるからとおだてられて、その気になったのが運の尽き、自分〔おれ〕程度のやつは都には河原の石みたいにごろごろいる。〈霧が丘〉のやつらは俺が上納金を納められないとみるや、論文の提出でさえ、形式が整わんだ何だと受け取りを拒否した。学問で身を立てられると言っておきながら。何たる理不尽か! いまでは父親も――それから、あとをついだ兄貴も――立身出世のかなわなかった弟に、仕送りの金を返せ、それができぬならせいぜい早く帰ってきて小作農の監督を手伝えと、言伝〔ことづて〕に人を寄越す始末。嗚呼、何たる理不尽! いまごろになって、どうしておめおめと実家なんぞへ戻れよう。いちどは都の文物の薫りを嗅いだ身だ、田夫〔でんぷ〕どものつば広帽のかげにかくれたあざけりの目に気付かぬ俺だとでもいうのか。
 幸い、長年貯めた小金がいくらかある。町や村を渡り歩いて土地の名士に教典を講義し口を糊し、そのうちに誰ぞ有力者の目にでも留まらぬものか。都でならいざ知らず、田舎でなら、少しは敬意を払ってくれる者もいないわけではなかろう――……。
 まさしく都でならばいざ知らず、正真正銘の田舎では、学問の重みなど屁とも思われぬのに思い至らぬほど、このときの彼は倦み疲れていたのだ。
 〈霧が丘〉の神官連中が半妖精の私生児に皇帝冠をさずけたと聞いたのは、物乞いと間違われ、一宿一飯にもこと欠く有様となっていた折であった。
 〈霧が丘〉のやることがこれほどまでに支離滅裂だとは!
 能力ある者が退けられ、あれほど疎まれていた森妖精の子が玉座に座るのを許すとは何たる理不尽、何たる――……
 雷に打たれたのはそのときであった。ある町の広場にある噴水のふちに腰かけ、思いめぐらせていたそのときに。
 空は澄み渡り雲ひとつなかったが、疑念は黒雲のようにむくむくとわき上がり、同時に、雷帝の声は天の頂から、彼の脳天目がけて落ちてきた。
『我こそはこの世を深く憂うる者。我の涙は大河へ注ぎ、怒りは雷霆となって怨敵を撃つ。斯くも混沌たる世に甘んじたるは、偏〔ひとえ〕に其の至高の座に似気無い者ののぼるを許したるがため。穢された玉座の陰にかくれ売僧〔まいす〕どもは暴利をむさぼり、無知無学な民はただふるえおののくのみ。誰がこの過ちをあきらかにできようか。其れ唯だ好く我の意に従う者のみ――いまこそ往〔ゆ〕きて、誤りを正せ』
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