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第十三章

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 まるきりすべてが違ってみえた。
 雲間から陽光の漏れ差すのも、小鳥のさえずりも、雷帝から己に宛てた神託〔メッセージ〕と思えた。飢えも、渇きも、もはや問題ではなかった。血管には溶けた金のごとく気力が巡り、全身に金剛石のごとき自信のみなぎっているというのに、そんなものが何の障〔さわ〕りになるというのか。
「そこ往[ゆ]く善良なる人々よ! 神々がいかにして我ら人の子を創りしか――それこそ幼子でも聞き知っておろうが、いまいちど知らしめよう。……」
 家庭教師時代と異なり身なりを気にする必要はもはやなかったし、実際、梳〔と〕かしも結びもせぬざんばら髪の四十男が四ツ辻で両腕をふり上げ大声でわめいているさまはさぞかし不気味に見えたに違いない。
「我らはもとは地母神の肉なる土器〔かわらけ〕の人形、それに偉大なる雷帝が聖なるいかずちを以って命を吹き込まれた! ……」
「しかしいま、人の子を教え導く〈霧が丘〉の神官らは重大なる過ちを犯した!」
 道ゆく人々は狂犬にでも出くわしたかのように(ほかに道があれば)くるりと回れ右したし、運悪く道がなければ、しょうことなしにそろそろとよけて通った。万が一でも男の飛ばす唾が身にふりかかれば、そこから腐れて落ちるとでもいうように。しかし彼らの姿が説教師当人の目に入っていたかどうかさえあやしいものであった。
「森の奥深くに棲〔す〕まう、人を惑わす精霊とのあいだに生まれし者を、雷帝の子の王たる座に就けた! そなたらも耳にしたことがあろう、あやしげなまじない女の噂を? おそろしげな術をつかうあやかしどものことを? 〈霧が丘〉の神官たちは金に目がくらみ、あやかしに魂を売ったのだ! 〈霧が丘〉の似非坊主どもに雷帝の鉄鎚の下らんことを!」
 ところが彼が声高に教えを説いていると、人々が食べ物をおいてゆくのである。たとえば信心深い老婆などが。狭苦しくて申し訳ないと詫びられながら、納屋に泊めてもらえることもいまやざらだ。腰をかがめながら教典を講義して回っていたころとは何という違いだろう、預言者として生きてゆくということは!
「そなたらは問う、この空は、ではそのあやかしの術なのかと? ――否! 雨は憂える雷帝の涙、いかずちは愚かなる神官どもへの御怒りの声! 彼奴らが己が過ちを認めるまで、雷帝の御心は晴れぬだろう!」
 雷帝の声は鳴神月の雨垂れのように降りそそいだ。彼はそれをそのまま繰りかえしてゆけばよかった。
「しかし恐れることはない、善良なる人々よ! 過ちを正すときは今! ――さあ、我とともに正しき道を歩むべし……!
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