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第十三章

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 はじめはものめずらしそうに子供たちが寄ってきて、ぽかんと口をあけて彼を見上げた。
「おじちゃんは、誰なの? お坊さん?」
 彼が息継ぎするのを見はからい、年嵩の男児が尋ねる。
「良い問いだ、幼子よ」彼はもったいぶって咳をひとつした。
「神官僧侶――そう、ぬしのいう坊主のことだな、は、ひたすら奴隷のように神に仕えるしか能のない者どもだ。しかしこの私はそうではない。ディトゥール神御自らがこの地にお遣わしになった者なのだ!」
「ふうん……それって、偉いの? 王さまと、どっちが偉い?」
「何だと?」
「あのね、このまえ都からいろんな物を売りに来た人がいてね、その人に聞いたんだ、神さまと、都にいる王さまはどっちが偉いのって。どっちも、僕、見たことないから。そしたら、都の王さまは神さまに選ばれて王さまになったんだから、神さまの子供みたいなもので、だから同じくらい偉いんだよって――」
「そんなはずがあるかァッ!」
 得意げだった子の顔がみるみるうちに涙目になるのも構わず、
「おまえたちはみな騙されているのだッ! いま都にいる、図々しくも“王のなかの王”を名乗っている奴も、愚かにも其奴に冠を与えた糞坊主どもも! みな、欲に目がくらんでいるのだ! 偉大なるディトゥール神はそれをいたくお嘆きであられる! 見よ、この灰色の空を! 貴様らが不信心にも偽の王や金ぴかの神殿などに祈りを捧げておるから、嘆きの涙が長雨となって降るのだ! つまり半分はおまえたちのせいなのだ、そんなことも分からんのか!」
 叫んで、指を子に突きつけたので、指先から稲妻でも発せられたと思ったか、その子はついに泣き出してしまった。
「オーロ、また喧嘩かい?」
 泣き声を聞きつけ、向かいのパン屋から、赤ら顔のおかみが前掛けで手を拭きつつ出てきた。
「なんだい、あんた?」子の顔を粉だらけの前掛けに押しつけ、ぎろりと彼をねめつける。「うちの子に変なこと吹き込んだら承知しないよ」
「我はその子らに偉大なる御神の摂理を説いて聞かせていたのだ。そなたらも都から来たとかいう小商人〔あきんど〕の言に惑わされたくちか? ――何も知らぬのだろう、無理もない、パン屋の女房では。だが気がかりだろう、今年の麦の出来が? この雲が晴れて太陽の女神の恵みが降りそそぐのはいつかと?」
 半農半商にちかい生業〔なりわい〕を持つ者ならば誰もが案ぜずにはいられないことを突かれ、おかみは不承不承のうちにうなずいていた。それを見て、彼は心中で得たりと意を強くする。これまでにも同じ方途で少なからず信者を得てきたのだ。
「良い機会だ、とくと聞いておくがよい――それは〈霧が丘〉の売僧〔まいす〕どもが悔い改めたときだ! 辺境の怪しからぬ半妖精の庶子を神聖なる玉座に就けた過ちを悔いて――」
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