FC2ブログ

第十三章

第十三章(11)

 ←第十三章(10) →スピンオフの作成について
 ウルバインが見るだに嫌そうな顔をしたので、マリウスはざっとなかをあらため、
「ああ、これはいますぐでなくて結構ですよ。例の〈水神大路〉の件です」
「またか?」とウルバイン。「先週もグラシャスに嫌味を言われたぞ。陛下の執務室の暖炉にはこの時節にも火が入っているのですかな、とか何とか。己が気に食わん書類を燃やしていると思っているんだろう。己には道路拡張工事のどこにおまえの渋る理由があるのか分からんが」
「それは、あそこをスッキリさせたいのは分かりますよ。でも、ものごとには順序というものがありますでしょう。あの小屋掛けを追い出されたら、彼らはどこへ行くというんです? せめて南区の魚河岸と干物工場〔こうば〕の建設が終わって人足寄場が空いたら、順繰りにでも移ってゆけるんですけど……」
 ウルバインは合点のいったように、ふっと遠くを見遣るようなまなざしになった。交易商や三の郭の住人――その多くはあまり裕福でない――を相手に小商いをする板張りの店舗兼住宅と、店と店のあいだにいつのまにか住み着いてしまった食い詰め者や、孤児や老いた物乞いたちの姿を、ウルバインも時折見かけることがあったのだ。
「魚河岸といえば、この雨でどうにかなってはいないだろうか?」
 ウルバインはマリウスと並んで窓の外に目を凝らした。
 風も出てきたらしく、すきまなく嵌め込まれた窓硝子が窓枠ごとがたがたと音を立てる。このぶんではパラスティア河とそれを引き込む掘割は茶色に濁っていることだろう。
「問題があればもちろん報告が入るでしょうけれど、先に手を打っておかれたほうがよろしいでしょうね、土嚢の搬入と備蓄物資の使用許可だけでも。まあもう宰相殿が手を回しておられることでしょうが」
 帝国ほどの規模ともなると、ほとんどの実務は末端の役人から中間層の都市伯レベルですんでしまうのが大半である。
「何事もなくすめばいいが」
「もちろん――あ、駄目ですよ、人手が足りないのならおれが土嚢を積みに行ってやろうなんてお考えは」
 労働のあとの麦酒がひときわ旨いことを、この皇帝は知っているのだ。
「それにしてもおかしな――時期はずれの雨ですねえ」
関連記事
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png INFORMATION
もくじ  3kaku_s_L.png 第一章
もくじ  3kaku_s_L.png 第二章
もくじ  3kaku_s_L.png 第三章
もくじ  3kaku_s_L.png 第四章
もくじ  3kaku_s_L.png 第五章
もくじ  3kaku_s_L.png 第六章
もくじ  3kaku_s_L.png 第七章
もくじ  3kaku_s_L.png 第八章
もくじ  3kaku_s_L.png 第九章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十一章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十二章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十三章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十四章
もくじ  3kaku_s_L.png 小編
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
  • 【第十三章(10)】へ
  • 【スピンオフの作成について】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【第十三章(10)】へ
  • 【スピンオフの作成について】へ

INDEX ▼