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第十三章

第十三章(24)

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騎馬の一団がゆく。
 燃えさしをとりかたづけていた人々がふと手を止めて見やる。
「誰、あのお貴族様は?」
「ちょいと遠くてよく見えねえなあ……二の郭のお大尽が、火事場見物か施しにでも出てきたんじゃないのかい。こっちは猫の手も借りたいっていうのに。まったく物好きなこって」
「だんな様、お恵みを」
 物乞いの幼子が、教えられたとおりによちよちと両手をそろえて差し出すのを、
「ばかっ、近づくな、あれは皇帝だ」
 同じく物乞いの父親〔てておや〕に襟首つかまれ引き戻される。
 いつもよりよけいに顔を伏せる乞食の父子〔おやこ〕を除き、誰もが遠巻きに騎馬甲冑の一群を眺めていた。
 先頭に立つ騎士のまとう戦袍〔サーコート〕、帝国の象徴である火を吹く黒いドラゴンと、選帝候家の一であることをあらわす直立する獅子を組み合わせた紋章は、紋章官ならずとも、帝都民ならば大人から子供まで知らぬ者はない。うしろの者たちの胸にはみな黒竜の紋章のみであったから、なおさらまちがえようがなかった。
 皇帝は兜もかぶらず、一番軽い剣、一番軽い鎧を身につけ馬上にあった。真っすぐな黒髪を背に流し、銀の甲冑に朝陽の照りかえすのに目をすがめているさまは、さながら一幅の絵に見えたであろう。ただ、彼の立っているのは朝もやのたなびく緑の谷ではなく、煤けたがれきの散乱する火事場であったが。
 火が消し止められてからはや五日がたとうとしていたが、片付けは遅々として進んでいなかった。
 目ぼしいものは火勢のおさまったのを見はからった火事場泥棒にごっそり持ち去られてしまい、いま落ち穂を拾うように人々が探し歩いているのは、焼け残った鍋釜器のないかどうか、あるいは家族の形見の品でもひょっとしたら残っていはしないかと、燃え殻をつつきまわっているためであった。
 火にまかれた人々の遺体も、これは護民官が検分しすでに城壁の外へ運び出したはずだが、日のすぎてもなお、肉の焼けたような甘く胸の悪くなる臭いや、喉のいがらっぽくなる、焦げた空気がどんよりとただよっていた。
 ものうげに作業をしていた人々は、やがて銀色の一団が何者であるかに気付くと、こわごわと頭を下げはじめた。あらわれた人物があまりにも場違いで、どうしたらよいか分からないというふうに。
 ウルバインのほうもまた、彼らにかけるべき言葉を持ち合わせていなかった。遍歴の騎士か猟師に身をやつしているときならば、身ひとつでがれきのなかへ分け入り、日の暮れるまで手伝いをしただろうが、皇帝としての彼は何をなすべきか分からなかった。ましてやこの災厄が己のせいかもしらんという疑念の払拭されていないとあってはなおさら。
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