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第十三章

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人も、馬も、全員が飛び上がった――驚いてではない。足下〔あしもと〕が激しく揺さぶられたためだ。
「――木が!」
 警告の叫びが発せられるとほぼ同時に、ウルバインは棹立ちになりかかった馬を脚と手綱で御しながらふりかえり、叫んだ――「全員、そのまま走り抜けろ!」
 その声が届いたか否かはあやしかった。
 瞬間、すさまじい音をたて山肌の木々が雪崩をうって下ってきた。
 それでも近衛騎士たちが金縛りに遭っていたのは一瞬であった。皇帝の号令一下、全員が馬に拍車をくれ、馬は狂ったように走り出した。
 がらがら、轟々という音とともに、落とし格子を落とすかのように彼らのあとを追って次々と木が降ってくる。飛礫〔つぶて〕のように木っ葉が飛び、手といわず顔といわず打ち当たる。なかにはほんものの石も混じっているのであろう。
 大木が横ざまに飛んできて、騎士のひとりを谷底へ吹っ飛ばした。
 誰もが馬の頸〔くび〕にぴったり体を伏せ、獣の本能の走るにまかせていた。水気をたっぷり含んだ土くれが雨あられと打ちかかり満足に息もできぬなか、馬が倒木に足をとられようものなら人馬もろとも崖下へころげ落ちる。落ちてゆく者の悲鳴さえかき消され、誰の耳にも届かない。
 ウルバインも手綱とたてがみをまとめてつかみ、右に左に、上へ下へと跳ねる馬の背で、乗馬が巨木や大石を飛び越す邪魔にならぬよう動きを合わせていた。
 枝葉と土砂の立てる颶風〔ぐふう〕に、真珠色のもやは茶色く濁った。幾度も通った道だというのに、己がいまどこを走っているのか、先導の一隊はすでに危難を脱したのかも定かならぬ。
 しかしようやく前方に、濁りのないみどりの枝葉がちらつくのを視界のすみにとらえた。
 刹那、目の前を閃光が走った。
 自分が一体何に撃たれたのか気付く間もなく、ウルバインは馬から叩き落された。そこへ大量の柏の枝葉とともに土砂が降って来、たちまちのうちに皇帝の姿を覆い隠した。
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