第十四章

第十四章(1)

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「――なぜいけない?!」ガラテアが声をあげた。
「陛下が皇帝になられるずっと前から、わたしはあの子の姉なのだ。それがどうしてこんなときに、そばにいてやれぬのだ?」
 皇帝不予の第一報が宮廷へもたらされたのは、ようやく五日もすぎてのことであった。
「姉上、落ちついて」
 ヘルカールがなだめるのも、
「……ですから皇女殿下、このようなときだからです。いまは陛下は絶対安静、たとえどれほど近しいお身内であられても、いたずらに陛下のご身辺を刺激なさるようなおふるまいは厳につつしんでいただかねばならぬのです」
 かろうじて無事であった近衛騎士らも疲労困憊、気ばかりはやるも体のほうが思うにまかせぬというありさま。なんとか起き出せたものの、大回りの街道を、あるいは森のなかのぬかるんだ小道をひたすら揺られ続けてきたため、いくら御前にまかりこすため身支度をととのえたとはいえ、くたびれた様子がありありと面にあらわれていた。このうえ皇姉の不安を払拭せねばならぬときては、まさしく大仕事である。
「そんな――それほどの病状というのならなおのこと――」
「いや、これは言葉が過ぎました。お命に別状はございません。ただ、一にも二にも安静にしていただく必要がございます。いま陛下を帝都へお連れするなどもってのほか、と奥医師の指示にて……」
「セルジュ御典医〔せんせい〕が……?」
 侍医の名を耳にし、ガラテアは少しく語気を弱めた。ジュネ・セルジュといえば、筆頭侍医をつとめるほどの、信頼に足る人物であったからだ。
「しかし、ヴェルメイユの小宮殿では人手も足りぬだろうし、十分な薬もあるとは思えぬ」
「そのことでしたら、近隣のブローデル殿にお力添えをお願いし、十分まかなうとのことでございましたゆえ、陛下にご不自由をおかけするようなことはございません」
「それならばまずはひと安心だが」
「ヘルカール、そなた、さように呑気に――」
「呑気、とは人聞きの悪い、姉上、私は何よりもまず兄上のお命が助かっただけでも重畳だと申したまでで――」
 なおガラテアは言いつのろうとしたが、そのとき小姓が扉を叩き、軍師長閣下に至急の遣いが来たのを告げた。
 ガラテアは立って行き、ややあって戻ってきたときには、その白皙〔はくせき〕の面〔おもて〕からは弟を憂う姉の面差しは拭い去られていた。
「火急の用のできたゆえ、わたしは中座せねばならない――先生には、何にも増して、陛下のことをお頼み申し上げる」
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