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小編

小編〔過去編〕(4)

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「私は騎士として育ったもので、貴女のようには森に詳しくないのです」
「騎士……」
「申し遅れました、私の名はエヴァラード。貧乏貴族の三男で、いまだ己の所領を持たず、諸国を渡り歩いている者です。ここで貴女に出逢わなければ、いまごろ志半ばにして野垂れ死にしていたことでしょう。ご厚意に深く感謝いたします」
「諸国を巡って……? では、此方へはどのようなご用向きでおいでになったのでしょう。ここにはいにしえの詩〔うた〕にうたわれるような邪〔よこしま〕な竜もいなければ、とらわれの姫もいないのですよ」
 とらわれの姫君はいないが、とらわれの騎士ならいる――彼は心中でひとりごちた。
「目的は、あることはあったのですが、いまとなっては些細なことです」
「では、これからいかがなさるおつもりですの」
「さあ――あてはありません。もともとあってないようなものですから。おっと、ところで私の馬はどこにいるかご存じですか? 一緒にいたはずなのですが」
「あの馬〔こ〕ならば隣の接骨木〔にわとこ〕のそばにいますよ。あなたをここまで運んでくれたのも彼です」
 ふたりが外に出ると、鞍をつけたままの栗毛がにわとこの木の下生えを食〔は〕んでいた。
 娘が近づいてゆくと馬はうれしそうにいななき、白い繊手から赤い甘い実を受けた。
「――驚いたな! こいつは気性が荒くて、そのせいで従者も逃げ出したくらいだというのに、貴女には俺よりなついているようだ」
「良い馬です。賢く気高い気だての持ち主なのですね」
「お褒めにあずかり光栄です」
 馬を褒められたというのに、彼はまるで己が褒められたかのような心もちになった。
「ですが、少しお腹の具合がよくないようですね。それに、脚に疥癬ができています」
「本当ですか? それは気付かなかった……こいつにも無理をさせてしまったのですね」
 主が手を触れると、栗毛は怒ったようにぐいぐいと鼻面を押しつけてきた。
「お薬を調合しますから、治るまでこちらにいらっしゃればよろしいでしょう」
「なんと、そうして頂けるのでしたら有難い、渡りに船だ」
 彼はかの女の手を借り、馬から鞍やその他もろもろの荷物――空〔から〕の水袋や、兜や、篭手や脛あての入った皮袋など――をおろし、ほぼ七日ぶりに愛馬の毛並みを梳いてやった。
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