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小編

小編〔過去編〕(5)

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「本当なら小屋にでも入れてやったほうがいいんだが。このあたりは狼が出ますか?」
「狼たちは早朝に泉へ水を飲みにやって来ますが、ここへは来ません。心配なのでしたらこれを首にかけておくとよいでしょう」
 そう言ってかの女が手渡したのは、黄色い花冠を編んで干した首飾りであった。半信半疑でそれを馬の首にかけてやってから、ふたりは木漏れ日の差すなかを草屋へ戻った。
 娘に水と桶を借り、三日といわず一週間は伸び放題だった髭を剃り、狼のたてがみ顔負けのざんばら髪を整えてしまうと、酒と音楽の神〔コルドゥアン〕ほどの美青年とはゆかぬまでも、それなりに見られる若い男が姿を現した。
「さてと、このあたりに薪小屋か何かはありませんか?」
「小屋でしたら泉のほとりに、朽ちかけた番小屋があります。ですが、あなたの案じていらっしゃる狼が出ますよ。そこへ何かご用なのですか?」
「馬はよいとして、しばらくご厄介になるのなら、私の寝床を確保しようと思いまして」
 森の娘は澄んだ空色の瞳で彼を見つめ、真面目くさった顔つきでこう言った。
「雨露をしのぐ場所が必要なのでしたら、この庵〔いおり〕においでになればよいではありませんか」
 ――おいおい、この清らかなご婦人は、行き倒れの得体の知れぬ男とひとつ屋根の下に寝〔やす〕むことの危険に全く無頓着とみえる。
彼は内心舌を巻いたが、
〈俺が騎士だから良かったようなものの……〉
「何か仰いました?」
「――いえ、さしあたり貴女を何とお呼びすればよいのかと思いまして、森の奥方?」
 娘はふたたび歌うような調子で答えた。
「イレーンと呼ばれています」
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