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小編

小編〔過去編〕(7)

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泉へと続く下生えの小径〔こみち〕をたどりながら、かの女は落ちている団栗を白い繊手で拾いあげては、ちいさな袋におさめた。彼にとってそれらは、たとえ踏みつけたとしても気にも留めぬような、気づきもせぬようなものだったが。
「何をなさっているのです?」彼は尋ねた。
「すべての子供のなかには偉大な大人が眠っているように」
ひらけた場所にくると、かの女は袋の団栗をひとつ埋めた。
「ひとつの団栗〔どんぐり〕のなかには森が入っています。彼らの(エルフの姫は樫の木を擬人化した)成長を見守るのが、わたくしのしごと」
 そうして道すがら、かの女は少なくとも二百と七十五年のあいだに己の為した仕事の成果を見せた。
 泉のほとりの柳の木は――その根元で倒れていたとき、彼はそんな木〔もの〕があることさえ気づかずにいたのだが――節くれだった枝からどんな王侯の宮殿もかなわぬほどの、シャンデリアのごとき葉を垂らし、ふくよかな灰色の貴婦人とでも形容すべき楡〔にれ〕の木は、見上げる首が痛くなるほどの高さに達し、こんもりとした傘のような樹冠に黄緑色のちいさな花が咲き誇る様子〔さま〕は、まるで時季はずれの雪が降ったかのような眺めであった。
 しかしなかでもいっそうみごとだったのは、樫の巨木であった。大の大人でもふたかかえはあるほどのがっしりした幹からは四方に枝がわかれ、けして褪せることのないつややかな緑の葉に、黄金色の陽光が照りかえる。
 これほどの樹は、もはや大陸中央部には数えるほどしか残っていないであろう。
 人間が、建材や薪にしてしまったのだ。
 エヴァラードがそう伝えると、美しき守り手は哀しみと誇らしさの入り混じった微笑みをうかべた。
「――気の遠くなるような作業だなあ!」
 思わずエヴァラードは額を打って口に出した。
「……ええ、ですが、こうしてふたたび森のよみがえるのを目にできることこそ、わたくしたちの希望なのです」
〈……でも人間〔おれ〕は、木の成長を見届けられるほど長くは生きられないんです〉
 彼はこっそりとひとりごちた。
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