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小編

小編〔過去編〕(9)

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「若いということは美しさと結びついているんです。まあ、なかには例外もありますけどね。若ければしわもないし、歯も全部そろっているし、冥府の釜鳴りみたいな咳もしない。顔全体がぶちの犬みたいになってしまうしみもないし……もちろんあなたにもそんなものはありませんが。あなたの歯はかの乙女ガラテアの像に埋め込んであるという真珠のようだ」
 彼の心からの賛辞にも、エルフの娘の白磁の頬にはちらとも赤みはのぼらなかった。
「若いというのは、年月を重ねておらぬということなのでしょうか。あなたにはまだ歯がありますし。ですがあなたのものさしではかれば、わたくしはおそらくあなたのひいおばあさまか、それ以上の年月をすごしているのですよ」
「ええと……我々の世界では、年月と分別は結びついていないんです。もちろん例外はありますが……わずかながらね」
「年月と分別が結びついていないのなら」森のなかで一番高い樫の木と同じくらい年ふりた娘はかたちのよい鼻のつけねにちょっと皺をよせた。
「何と結びついているのでしょう?」
「さあ……たぶん皺とか、哀しみとか……」言いながらエヴァラードは間抜けな己を心中で罵っていた。このままでは、この頭のてっぺんから足の先まで完璧な長上の民の王女さまに、人間という生きものは――そのなかにはむろん俺も含まれている――とんでもなく救いがたい奴らだと思われてしまう。この俺が人間の弁明をしなけりゃ、ほかの誰にできるというんだ。
「あなたがたにはきっと、生まれつき、分別が与えられているのでしょうね」彼は言った。
「ええ、三女神のおかげをもちまして」
 生ける女神の面〔おもて〕にはじめて、春めいた色が刷かれた――どうやら人間〔ひと〕なみの虚栄心というものは持ち合わせているようだ。
「ですが、頭で恋はできないと、ものの本にも言うでしょう」
「あら、それは聞いたことがありませんわね」
「カルミアのその薔薇色の指で触れられたが最後、いとしい人が西にいようが北にいようが太陽はそこから昇るように感じられ、そのひとの姿を一日見られないのなら晴れでも曇天、夜ともなればいとしい人の窓の下で、隣近所の迷惑もかまわず下手な恋歌をひとくさり……」
「カルミア様の炎はそのような業火ではなくて、もっとおだやかな、炉辺の火のようなものではありませんの?」
「どうだか、あなたがたと人間〔われわれ〕では違う作用なのかもしれませんね。でもこの恋の炎というやつは、人違いの窓の主から水をぶっかけられようと、親兄弟が泣いてすがろうと、おいそれと消えるものではないのですよ」
「まあ」
 とてもほんとうとは思えなかったのか、イレーンはくすくす笑った。
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