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小編

小編〔過去編〕(11)

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さらに数日がすぎたが、エヴァラードはあいかわらず草屋にやっかいになっていた。
 エルフの娘はこのただ飯食らいに嫌そうな顔ひとつせず、かえって、彼がこれまで傭兵づれとして巡り歩いてきた人間諸国の話を聞きたがった。
 大陸中央部にはすでに竜はおらず、いまは、城を持たぬ騎士たちは、竜ではなくほかの騎士を打ち倒すことによって、生活の糧と、ときには妻を得ているのだと彼は語って聞かせた。
「まあ何にせよ、俺には無縁な話です」人間の若者は妙に真面目くさった顔つきになって言った。「気ままな身の上ですからね。本当に愛する女性と結婚するのも……」
「お心を寄せるお相手がいらっしゃるの?」
 急にイレーンが彼をじっと凝視〔みつ〕めたので、エヴァラードはどぎまぎした。
 かの女の瞳〔め〕は澄んだ春の空の色……いや静かな泉の……。
「えっ……ええ」
「それはすてきですわね。そのかたとはいつお知り合いになったの」
 この瞳に嘘はつけない……いっそのこと今ここですべてを話してしまおうか、いやそんなことをしては気味悪がられるのがおちか、なにしろ俺たちは……。
「ええっと、そのう……実をいうと、まだ知り合って間もないのです。ですが、結婚したいと考えています」
「あら」イレーンは可笑しそうに声をあげた。「それはお相手の女性〔かた〕も同じ思いなのかしら?」
「それは……その、まだハッキリと尋ねたわけではないのです。ですが、淑女は、結婚したいかしたくないか尋ねられて、明らかに返答したりはしないものでしょう?」
「そんなことはありませんわ」
 とかの女が言ったので、エヴァラードはなんだか妙な具合になってきたぞと思いながら、わずかに想い人のほうに身を乗り出した。
 そのとき彼らは泉のほとりに座っていて、エヴァラードは森に背を向けていた。おまけに目の前の女神を口説き落とすのに夢中でもあった。それで気づかなかったのだが――どのみち、人間の耳には風の精のかろやかな足とやわらかな靴底が露に濡れた下草を踏む音など聞こえなかったろう。
 先に気づいたのはイレーンだった。
 かの女は春の野兎のようにぴょんと飛び上がった。
〈アリオン!〉
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