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小編

小編〔過去編〕(14)

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森に夜が降りてきた。
 かけすやきじばとはねぐらへかえり、代わって梟〔ふくろう〕や小夜鳴鳥〔ナイチンゲール〕が、知恵の女神への頌歌を歌い出す。木々のあいだにちらちらするは、蛍か、あるいは名も知れぬちいさな妖精たちか。
 宮廷の宴にも劣らぬ食卓を、イレーンは庵の前にしつらえた。樹齢三百余年におよぶという樫の倒木を切り分けた板をテーブルに、ひょろ長いのからかさの丸いの、白いのから茶色いの、まだらのものまで数種の茸を香ばしく焼いた皿。みずみずしい青菜と山羊のチーズに、カリッとするまで炒った胡桃〔くるみ〕のサラダ。すりおろした人参のソースは目にもあざやか。うきみに三色菫の花びらを散らしたスープ。金色の蜂蜜とバターをたっぷり縫ったパン、甘く濃厚な李〔すもも〕の酒さえあった! これらをいつもながら文字どおり魔法のように並べてみせたのだった。
 アリオンの持ち寄った鹿肉は、時間をかけて炙り焼きした上に、木苺や苔桃でつくった甘酸っぱいソースがかけられ、蜜蝋燭のあかりの下〔もと〕、つやつやとあかがね色に輝いていた。
 鹿肉を切り分けるのは狩人であるアリオンの役目であった。この名誉ある役を、彼は優雅にやりとげた。
「あなたがたも肉を食べるとは知りませんでしたよ」
「我々も鹿は狩る。ただし牡鹿だけだ。彼らは力強く、高貴で美しい生きものだからね」
 角ふりたてた牡鹿に脚や脇腹を切り裂かれた経験があればうなずける話である。
「あなたおひとりで? 勢子〔せこ〕や猟犬は?」
 エルフの狩人は緑の眸〔め〕をほそめた。
「私ひとりだ。ほかの者の手は借りぬ。いったい、その必要はあるのか? ときには追うのに七日かかることがあるが、彼らはそれに値する」
「鹿狩りは人間界〔こちら〕でも王侯だけに許されたおこないですよ。鹿を射止めるのは最高の栄誉だ」
「それには同意する」アリオンが言った。
 イレーンも微笑む。
「あなたも鹿狩りに参加したことがおありですの、エヴァラード?」
「ええ。あなたがたがひとりで狩りをされるというのでなければ、俺も加わりたいところです。俺の馬がいるのをご覧になったでしょう? あれは狩りにもつかえるのです。足が速くて賢い」
「ああ、いい馬だ。馬は乗り手に似るというが……たしかに、馬はいい」
「…………」
 助詞〔てにをは〕のつかいかたをまちがえたのかどうか、指摘するのもはばかられた。
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