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小編

小編〔過去編〕(16)

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「虚飾は人間のもっとも愚かしい性情のひとつだ。そのためならば、彼らはどのような所業でも、なんのためらいもなくやってのける……」
「あなたが何を心配されているのかは知らないが、腐っても、俺は騎士です。恩人に命を捧げることはあっても、恩を仇でかえすようなまねはしません」
「私も、人間界で、己を騎士と称する人間には何人も会った」エルフの貴公子はしなやかな肩をすくめた。「村落に火をつけ、娘たちを略奪し、あるいはこれまでともに戦っていた仲間に刃を向けるようなときに」
「そいつはたぶん百年前の話じゃあありませんか」イレーンの美しい眉のくもるのを横目にとらえ、彼は急いで言った。
「昔は、そういう蛮行もあったと聞いている。でも今は、少なくとも帝国では、そのようなおこないは許されていない」
「どうかな。人間はそう短期間に変わるものではないよ。人間は過剰なのだ。殺しすぎ、奪いすぎ、嘘をつきすぎる」
「……あなたが人間に疑いをもっているのはよくわかりました。でも、この世のすべての人間に会ったわけではないでしょう。せめて、目の前にいる俺ひとりがどうなのか見てもらえませんか」
「あなたの矢は払われましたわね、アリオン」
年上のいとこが反論せぬうちに、イレーンがすばやく口をはさんだ。かの女の空色の瞳は夏の空のようにめまぐるしく濃さを変え、いまはいたずらっぽい光がきらめいていた。雪花石膏〔アラバスター〕の頬にも――気のせいだろうか?――刷毛〔はけ〕でさっと刷いたようなほのかな朱〔あか〕み。
「心優しき裁定者には従おう」
 あっけないほどあっさりと、アリオンは身を引いた。
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