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第十四章

第十四章(2)

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Ⅱ.

 魔道士たちの玩〔もてあそ〕ぶ陣取りゲームにおいて意外なところに置かれた石が思わぬところで情勢をひっくりかえすように――あるいは放置しておいた一匹の鼠がついには家じゅうの食物を食い尽くすように――大公国軍は侵攻を開始した。

 〈帝国〉の一部地域における荒れ模様とは対照的に、大陸中央部の空気は心地よく乾いていた。
 どこまでも高く澄みきった、まるで湖水を逆さまにしたかのような蒼天の下〔もと〕、ゆるやかにうねる丘陵が地平の果てにかすむ。淡い緑と濃い緑が交互に現れるのは、あいだに植えられた小麦の畑。
 乾いた風と降りそそぐ陽の光、それから縦横に走る河川の恵みを受けて、真っすぐに丈高く育った麦の穂が、風の吹く方向とはてんでばらばらに揺れる。
 緑の穂のあいだから突き出しているのは、鋼鉄の穂。
 穂首に吹流しを結びつけた槍も見える。兵士の行進であった。
 じりじりと照りつける太陽に金糸銀糸の照りかえる旗は、〈七つの金の団栗〉〈赤い火蜥蜴〔サラマンダー〕〉の縫取り。〈金の団栗〉はリーンサルの都市国家ファリアのもの、〈火蜥蜴〉はマンドヴァルの大公たるユディウスの、アスカニオ家のものである。
 しかしそこに、大公国の〈双頭の黒鷲〉はない。
 兵の大半は徒歩〔かち〕で、こまかな傷のためににぶく光る胸甲と兜を身につけ、土埃のなかを黙々と進んでいた。
 先頭の騎馬の一団のなかにユディウスはいた。彼は兜をかぶらず、結わえた黒髪を緋の外套〔マント〕の上に流しているほかは、兵士らと似た軽めの胸甲しか纏ってはいなかった。
「どうだ、ジラール」彼は傍らに並ぶ騎馬の男に声をかけた。
「乗馬姿もなかなかさまになってきたようだな」
「ええ、まあね」
 灰色の眸〔め〕の元盗賊団の元締めは、硬い鞍の上で落ちつかなげに尻の位置を直した。
「ですがね、いざってときには下りてやらせてもらいたいもんですね。どうも、こいつらは俺の言うことをききやしねえ」
「構わんさ」ユディウスは笑った。「いずれにしろ、おまえが下馬して戦うことにはならんだろう。モレノの奴らはどうやら篭城を決め込んだようだからな」
「けッ、そりゃあそれでつまらねえ、ですな」
 ジラールは唾を吐きたそうにしたが、主君の前とあってさすがに思いとどまった。
「穴熊を巣穴から追い出すには方法はいくらでもある」
 彼らは都市国家ファリアと、それが抱える傭兵の一団として、敵対関係にある都市モレノへと向かっているのだった。
 ユディウスはファリアの少年君主とその係累を皆殺しにしたあと、兵力をそっくりそのまま傘下におさめていた。今は亡きレイモンの下についていた三人の傭兵隊長たちの妻は、誰あろうあの三姉妹であった。
 むろん、これまでの恩義のあるからと、離れていった者もいないではなかった。が、
「彼らを醜女どもから解放してやったのだから、感謝されてしかるべきだ」とは、虐殺を指揮した張本人の言である。
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