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小編

小編〔過去編〕(22)

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広間のなかは静まりかえっていた。そこに女王をはじめとして十三人がいたにもかかわらず。
 妖精の女王は銀の枝で編んだ巨大な鳥籠のような玉座にましましていた。永遠に色褪せない宿木〔ヤドリギ〕と花々が銀の枝に絡みつき、後光のような雰囲気を醸しだす。
 玉座の両脇には大人の片腕ほどの、白鹿の枝角が生え、女王をさながら春の女神の化身のごとく見せていた。
 まったく、女王はそれに値した。その身にまとうのは曙色をした長衣〔ローブ〕に金の帯。春の雲のようにやわらかくゆたかな金髪は床に届くほど背を流れ落ち、卵形の面〔おもて〕にはしみひとつなく、萌えるみどりの双眸が、けぶる金色のまつげにふちどられて、じっと孫娘を見つめていた。
「おばあ様にはご機嫌うるわしく……」
「うるわしくはありませんよ、イレーン」
 絹のようになめらかな声は、しかし、いくぶん疲れを含んでいた。
「何が妾〔わらわ〕を悩ませているのか、聡明なそなたならわかるはず」
「わたくし自身の不徳がおばあ様を悩ませているのでしたら……」
「そなたではありません。そなたの許〔もと〕にとどまっている者ですよ」
 横から口添えしたのは居流れる女王の顧問のひとりであった。
 こちらも、透けるような肌に美しい金の髪、イレーンとさほど歳は変わらぬように見えるが、実のところ女王と同じかそれ以上ということもありえた。
「そなたの許にはひとりの人間が逗留している。その者は形姿〔なりかたち〕は戦人〔いくさびと〕のようであるが、来し方を明かさず、また行方〔ゆくえ〕も確たるものではないとか。かような、素性の知れぬ者を、そなたはすでに月の半分も留め置いていると聞く……」
「其は事実に相違ないのかえ、イレーン?」
「はい、おばあ様、それは――」
「陛下とお呼びなさい。ここは奥の間ではないし、そなたは此方の職責のために喚〔よ〕ばれているのですから」
「忌々〔ゆゆ〕しき事態よ」女王は片手をひいでた額に当てた。「一刻も早く事訳〔ことわけ〕をあきらかにせねばならぬ……ひとつには、なんらかの故あって、そなたの惑わしの力の落ちたためではないのかえ?」
「いいえ、陛下、わたくしの――」
「かの者は、リーンサル〔アウダシア〕への途上と言ったということでしたね。彼方にはかの〈灰色の輩〉の集う塔がある。彼方の手の者ではないの?」
 さいぜん、陛下と呼べと口にした顧問役が尋いた。
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