FC2ブログ

小編

小編〔過去編〕(24)

 ←小編〔過去編〕(23) →小編〔過去編〕(25)
長上の民が(めずらしく)己があやまちをそれと認めたときには、すでに遅きに失した。
 彼らはドワーフ族を上回る速さで、雨後の茸のように増え、エルフ族が久方ぶりに森から首を出してみたときにはもう、いにしえの森はナヴァールの大森林と、いまではオルタナと呼ばれるようになった大陸北東部の森に分断されてしまっていた。
 エルフ族とてただ手をこまねいていたわけではない。樫の木が一本切り倒されるたびにどんぐりを十埋めた。だがそれは竜と二十日鼠の時間が違うように、破壊と増殖という濁流の前に押し流されてしまうひとしずくの雨粒であった。
 ここへきてついに森妖精族も戦うことを決めた。岩妖精族のほうはとっくの昔に戦っていた――そしてかなりひどいめにあっていたのだが、それはまた別の叙事詩〔ものがたり〕である。
 いま、数を減らした森妖精の一族の棲むのは、まどわしの術で守られた一帯となっていた。人間の〈帝国〉が、オルタナを“自治領”と称しているらしいというのも、人の足では入ったが最後出てはこられぬ深い森が、かろうじて聖域となっているためだ。
「……それはわたくしにもわかりませぬ、陛下。ですがあの若者は……」
(おまえは何を言うつもりなの、イレーン)
 もうひとりのかの女がとがめる。
 かの女はこのとき、エヴァラードは陛下がたがお考えのような悪しき存在〔もの〕ではありません、と叫びたいのをこらえたのだった。
 羊飼いらは獣や人の病に効く薬草をよく知っているが、それでも手に負えぬとなると、森の奥深く、泉のほとりに棲む妖精を訪ねる。人間が〈常若の森〉に立ち入ることをほかのエルフたちはこころよく思っていなかったが、かの女はそれを女性に限ることでなんとか彼らを宥〔なだ〕めていた。
 エルフ族の例に漏れず好奇心旺盛で、弱い者に同情的なかの女の性質〔さが〕を知る同輩たちにしてみれば、かの女が得体の知れぬ者にたぶらかされたように思われたのかもしれぬが、かの女の直感はべつのことを告げていた。
「……わたくしには、あのかたは、ふしぎなものをお持ちと映りました。炎のような……。最初に目にしましたときも、人間(ひと)に身をやつした戦神〔ヴォルト〕なのではないかとさえ……」
「憶測でものを言うのはおよしなさい、イレーン殿。そなたらしくもないこと」顧問役がとがめる。
「だとしたら、それこそなぜと問わねばなりません。カルミア様のご夫君ならば、なにも人間風情に扮せずとも、いつなりとご来降〔らいごう〕なさればよいことでしょう」
「もうよい、イレーン」女王はおだやかだがきびしく言った。「検分はほかの者にさせようほどに。そなたには急な呼び立てであったな。たまの訪〔とぶら〕いなのだから、しばらくとどまるがよい。そなたの顔を見たがっている者もおる」
関連記事
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png INFORMATION
もくじ  3kaku_s_L.png 第一章
もくじ  3kaku_s_L.png 第二章
もくじ  3kaku_s_L.png 第三章
もくじ  3kaku_s_L.png 第四章
もくじ  3kaku_s_L.png 第五章
もくじ  3kaku_s_L.png 第六章
もくじ  3kaku_s_L.png 第七章
もくじ  3kaku_s_L.png 第八章
もくじ  3kaku_s_L.png 第九章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十一章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十二章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十三章
もくじ  3kaku_s_L.png 第十四章
もくじ  3kaku_s_L.png 小編
もくじ  3kaku_s_L.png 設定
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
  • 【小編〔過去編〕(23)】へ
  • 【小編〔過去編〕(25)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【小編〔過去編〕(23)】へ
  • 【小編〔過去編〕(25)】へ

INDEX ▼