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小編

小編〔過去編〕(25)

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かの女は柱の木立のなかに、とおい従兄弟の姿を探した。
 アリオンは、過日とは異なり、女王の宮廷にふさわしい、春の宵を思わせる紫がかった藍色の長衣をまとい、そのひいでた額には銀の環〔サークレット〕を飾っていた。銀環の中央にさがるひと粒の真珠は、かつて彼がナヴァールの地におもむいたとき、友好のあかしとして、かの地のいまひとりの妖精女王から授けられたもので、いまもとおい星のようにやわらかな光を放っていた。
「今晩は、イレーン、私の愛するいとこ」
「彼のことをおばあ様にお話ししたのは、あなたですの?」
あいさつも抜きにかの女は切り出した。
「いけないかね? 必要なことだと思ったのだけれど」
「…………」イレーンはかるく唇を噛んだ。
 年上のいとこの行動〔おこない〕は何ら責められるべきものではなかった。
「あの男はリーンサルの一画へゆく道を探している途中で迷ったと言ったが、それが嘘ではないというあかしはどこにある? よしんば真実であるにしても、なぜそうする必要があったのか、あの男は話したかね? あの男がただの旅人ならば、もっと楽な街道をとおればよい。まあ、とてもただの旅人には見えぬけれどね」
「……ええ、あのかたはただの旅人ではありませんわ。あなたの、客人に対するには少しばかり礼を失していると思われるもの言いにも、礼儀正しくお話しされました」
「あの男がどこかの間者ならば、あとで軍勢を連れて戻って来ぬとも限らぬだろう?」
「そんな……そのような……ことは……」
 イレーンは暁の空いろをした瞳をくるめかした。
「そのようなことはさせません。わたくしが……この力の及ぶかぎり……」
「どうかな。こたびのことでさえ、イレーン、人間が立ち入れたということがすなわち、きみの力が弱まっているということにほかならぬのではないか……?」
「…………」
「以前〔せん〕から言っているとおり」年上のいとこはやさしく言った。「かの地の守護はきみがひとりで担うべきものではない……こたびのことで、おばあ様も、なおのこと案じておられる。もうそろそろ、誰かほかの者へまかせ、宮廷へ戻ってきてもよい頃合いだろう?」
「……ええ、そのうちには」
「いまではいけない理由でも?」
「……なぜそうせかしますの」
 かの女は眉をくもらせ従兄弟を見上げた。
「いったい、いつになったら私の申し出を受けてくれるのかと気になったものだから。ふたりで女王にお仕えするのは実に名誉なことだって、むかし話したのを覚えている?」
「そのお話はまたに。急なお召しで急いで出てきてしまいましたから」
「どうしたの、熱した鉄の靴でも履かされているみたいにそわそわして。もっとゆっくりしていってもいいだろうに。彼だって礼儀をわきまえているなら、己のことは己でするだろう。ずいぶんとあの人間のことが気にかかるようだね」
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